【コラム】石綿事前調査に伴う採取について~調査ではなく「採取」に資格は必要か?~
今回のテーマは分析機関や調査機関に属していると1年に数十回は問い合わせで聞かれる【調査に資格が必要なのは知っているが「採取」に資格は必要か?】について深堀しようと思います。石綿に関する解体・改修工事に伴う規制が日々更新されていく現状にお悩みになられている方の助けになれば何よりです。
※この記事は2024年1月30日に施行されている法令に基づき書いております。
目次
1.結論から申せば
結論から申せば事前調査に資格は必要ですが「採取」に対して義務とされる資格はありません。環境省・厚労省の漏洩防止マニュアル※1では「石試料採取作業者の石綿ばく露防止の観点から、石綿作業主任者を選任することが望ましい」とされています。しかし、義務がないとはいえ、危険な可能性が多分にあることを以下の文章でお伝えしていきます。
※1「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」(厚生労働省、環境省)
URL:https://www.env.go.jp/air/asbestos/post_71.html
2.事前調査について
そもそも事前調査とは何かをご説明してから採取の説明に移りたいと思います。
現在、日本において以下の条件が石綿の事前調査における要件※2になっています。
■ 解体・改修工事を行う際には、その規模の大小にかかわらず工事前に解体・改修作業に係る部分の全ての材料について、石綿(アスベスト)含有の有無の事前調査を行う必要があります。
■ 事前調査は、設計図書等の文書による調査(※設計図書等の文書が存在しないときを除きます)と、目視による調査の両方を行う必要があります。(2021年4月から)
■ 事前調査は、建築物石綿含有建材調査者などの 一定の要件を満たす者が行う必要があります。(2023年10月から)
■ 事前調査の結果の記録を作成して3年間保存するとともに、作業場所に備え付け、概要を労働者に見やすい箇所に掲示する必要があります。(2021年4月から)
■ 一定規模(解体工事の場合は解体部分の延べ床面積80㎡、改修工事の場合は請負金額が100万円)以上の解体・改修工事の場合、事前調査の結果を労働基準監督署に電子システムで報告する必要があります。(2022年4月から)
解体・改築する案件に関しては、一定規模によって申請しなければいけない条件はありますが全て例外なくチェックしてくださいという内容です。つまり、どのような現場においても必ず石綿含有建材調査者はいることになっています。そのため、調査者=採取者という考えの方たちもいらっしゃいますが、現場においては作業日数が限られており、複数人で採取を行う場合もありえます。そんなとき、人間はいても資格者が足りない!といった事案が発生します。
そんな事案に遭遇した皆様が思うのは「調査者の指示のもと採取を行う上では資格は必要か?」という疑問だと思います。
※2 「石綿総合情報ポータル」(厚労省:石綿総合情報ポータルより抜粋)
URL:https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/business/house-wrecker/
3.採取の危険性
上記調査の概要説明を踏まえて、採取は明確な調査者の責任のもと行います。書面・目視によって確認し、石綿含有建材と疑わしき箇所から採取を行います。この採取に対して資格は必要かという主題ですが、前述もしましたが採取に資格はいりません。しかし筆者個人としては危険性の高さから推奨は致しません。以下に代表的な理由を列挙致します。
①作業者へのばく露
前述した漏洩防止マニュアルにもある通り石綿含有建材の採取作業は作業者の石綿ばく露の危険性が高い作業になります。適正な道具・装備・知識を揃え、採取を行わなければなりません。
②周囲に飛散
建材の採取に関しては、基本的にアスベストが含有しているとみなして採取しなければなりません。採取後の飛散防止・採取地点の清掃など適正な後処理を理解してなればなりません。稼働している建物の採取もあり得るため、最悪の場合訴訟に発展することも考えられます。
③採取中の変更
例えば壁や天井ボードの採取を指示された作業員が、採取中にボードの二重張りや裏側にある別建材を発見したとしても知識が不足していた場合対象建材ではないと見逃してしまう可能性があります。現場においては採取によって露出する箇所を目視した結果、採取方法・数量を変更したりと作業者の応用力が試されます。
以上のような様々な理由から危険性を含んでいる採取は適正な教育によって知識を学んだ作業者が行うべきであり、誤った知識や不明瞭なまま行うものではありません。
4.最後に
近年、様々な業界で問題になっている労働者不足から応用をきかせなければいけない場面は必ずあると思います。だからこそ、出来る限り採取作業を行う方も石綿作業主任者や石綿含有建材調査者などの資格講習を受講することを推奨致します。
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